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【ラップに、一番大事なもの、それは「感情を込める」ことだ】

「バイブス」

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(ポリシー)

ラップに、一番大事なもの、それは「感情を込める」ことだ。

この一点だけは、チャンピオンと同じくらい使いこなしている自信がある。

情熱、雰囲気、ときには説得力。自分の感情を操り、他人の感情を飲み込む。

ボクの言葉で観客が沸き、ボクの言葉で観客が泣く。こんなに嬉しい事はない。

【言霊】が誕生する前から、あまり人を貶す事はしなかった。

ラップにおいてディスる事が重要なのは、もちろん理解している。

……ただ、気の弱いボクは、どうしてもディスが苦手だった。

【言霊】が誕生し、ディスる事が禁止された。褒める言葉しか使えなくなった結果、ボクはトップランカー入りする。

自分の得意分野だけで戦えるようになったのだから、当たり前だろう。

とはいえ、ディスれない自分を変えたい気持ちは変わっていない。気弱な自分を克服するために、この業界に入ったのだから。

 

(ストーリー)

―――あなたとチャンピオンは古くからの幼馴染で、友人だ。

幼い頃から何度もラップバトルを挑んだが、一度も勝てた事は無い。

そもそも争いが苦手なあなたは、観客を沸かすラップが好きで、ラップバトルは好きではなかった。

しかし、チャンピオンとだけは幾度も幾度も戦った、彼とのバトルは争いではなく対話だったから。

……勝とうが負けようが楽しかった。

「喉に病気が見つかって、手術しなければならない」

一週間前、チャンピオンから突然の告白を受けた。

手術の成功率は著しく低く、万が一成功しても声が出せる可能性はゼロ、との事だった。

……かける言葉が見つからなかった。

最後にあいつを倒して、自分がチャンピオンの座につく。

あなたが出来るチャンピオンへの恩返しは、それくらいしかないと決意した。

(今日の出来事)

12:00~

今日の試合がチャンピオンにとって最終試合になるのだが、それは公表されていない。

「【引退試合】なんてテンション下がるラップを観客に見せたくない。

最後まで戦い続け、無敗のまま伝説としてこの業界を去る」

とか、あいつらしい理由で隠しているみたいだ。

どうせ今日の試合も勝つのだろう。ボクはそれを見守ろう。

試合会場であるラップバトルアリーナへ到着した。

 

13:00~

会場へ着き、観客席へ座る。

今日は、ライムというラッパーとの試合だ。

……試合が終わる。

最後の試合だと言うことは誰も知らないはずだが、その魂を全て捧げるようなラップは、当然のように観客全員の心を奪ったようで、まわりの観客たちはいつまで経っても帰る様子がなかった。

ボクは急いで席を立ちあがり、チャンピオンの控室へと向かった。

 

14:00~

チャンピオンの部屋をノックする。少し間が空いて「どうぞ」と返事が返って来た。

ドアを開けると、中にはチャンピオンしかいない。

「お疲れ、最高の試合だったよ」

ボクがそう声をかけると、チャンピオンは無言で親指を立てる。

「……ねぇ、ボクとラップバトルしない?」

「珍しいな、バイブスが積極的にバトルだなんて」

チャンピオンが驚いた顔をしている。

「お前なら、俺が引退した後、チャンピオンになれるかもしれないな。でも、まあ、現状チャンピオン候補はふたりいる。そのうちのひとりには、お前じゃ確実に勝てないよ」

チャンピオンが引退した後の話なんて、今は考えられない。

ただボクは最後に、彼に勝ちたい、それだけだ。

 

15:00~

……完敗だった。

ボクは最後にチャンピオンと握手をして、控室を出た。

高ぶる気落ちを落ち着かせるため、会場内の自動販売機でコーラを買う。

それを飲み干すと、空っぽだった脳内に流れ込むようにチャンピオンとの思い出が蘇って来た。

今までの思い出を振り返っていると、いつの間にかかなりの時間が過ぎていた。

不意に、ピコン、とスマホが音を鳴らす。

……チャンピオンからだ。

【ヘイ、お疲れ、バイブス。

年賀状の文化が年々廃れてきて、メールやラインであけおめが済まされているらしいな。

常にトップを走る俺も、もちろんそれにノッていく。

つまりそう、遺書をラインで送るという試みだ。クールだろ?

俺が自殺する理由は、話すまでもなく分かってくれるかな?分からないか。

ま、後は任せた、俺は伝説として生きていくよ】

 

16:00~

全速力でチャンピオンの控室へと走る。

チャンピオンの控室へ行くと、横たわるチャンピオンとライムがいた。

ボクは、慌ててチャンピオンに駆け寄る。

しばらくすると、フロウが控室へ入って来た。

 

(目標)

結局、チャンピオンに勝てないまま、あいつは自殺してしまった。

……頭がぐるぐるまわる。

今までの思い出が、走馬灯のようい駆け巡る。

あなたは誓う。その誓いは、狂っている、と言われても否定できないもの。

 

何が何でもチャンピオンになってやる。

 

そのためには手段は選ばない。現在チャンピオン候補は自分を含めて三人。

自分がチャンピオンになるために……。

 

【誰かを犯人にしたてあげ、追放する】

 

それがあなたの目標だ。

 

 

(秘密)

チャンピオンの遺書、あの内容は間違えなく彼が書いた物だ。

【言霊】にはランクがあり、言葉を使いこなすレベルが高くないと出来ない、つまり一般的には未だ知られていない裏技がある。

それが【言霊自殺】だ。

チャンピオンならもちろん出来るし、最低でもボクくらいの実力がないと出来ない言霊の使い方。

鏡で自分の眼を見ながら高ランクの言霊を放つ。ただ、それだけで自殺できるのだ。

チャンピオンはおそらく、言霊自殺をしたのだろう。

 

(行動の指針)

チャンピオンが遺書を送ってきた事は、隠しておくべきだ。

誰を犯人にしたてあげればチャンピオンになれるだろうか

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