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【ラップに、一番大事なもの、それは「音楽に言葉をうまく乗せる」ことだ】

「フロウ」

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(ポリシー)

ラップに、一番大事なもの、それは「音楽に言葉をうまく乗せる」ことだ。

この一点だけは、チャンピオンと同じくらい使いこなしている自信がある。

もちろん韻を踏む言葉遊びや、感情を込める事も大事だとは思う。

けれども、俺が一番気持ちの良い瞬間は、ビートと言葉が一体化した、あの瞬間。

【言霊】が誕生してからも、その考えはもちろん変わることはない。

ただ、褒める言葉しか使えなくなり、俺のラップは明らかに下手になった。

ビートの感じるままに言葉を乗せる俺のスタイルでは、汚いビートが聴こえてくると汚い言葉しか思い浮かばない。

だからディスる事が禁止された当初は、ラップ途中で何も言葉が出なくなる事もあったくらいだ。

チャンピオンに協力して貰い練習しているうちに、褒める言葉を汚いビートに乗せる事も出来るようになった。

チャンピオンには感謝しているが、それと勝負は別の話。

いつだって俺は上を目指している!

 

(ストーリー)

―――あなたはチャンピオンの一番弟子だ。

一番弟子と言っても、チャンピオンの弟子はあなたひとりしかいないし、チャンピオンから弟子と認められた訳でもない。

「弟子は取らない主義」だと断られても、ずっと通い詰め、その執念もあってかたまに練習に付き合ってくれるようになった。

こちらからの憧れだけで、チャンピオンは自分にまったく興味ないのだと思っていたけど。

【言霊】が誕生してディスる事が出来なくなり、あなたがスランプに陥っていたとき、真っ先に助けてくれた。

……チャンピオンには感謝しかない。

「喉に病気が見つかって、手術しなければならない」

一週間前、チャンピオンから突然の告白を受けた。

手術の成功率は著しく低く、万が一成功しても声が出せる可能性はゼロ、との事だった。

……俺が感謝の気持ちを伝える方法はラップしかない。

チャンピオンをラップバトルで倒して、俺がチャンピオンになる。

それがチャンピオンへの恩返しだと、あなたは考えている。

 

(今日の出来事)

12:00~

今日の試合会場であるラップバトルアリーナへ到着した。いつもの通りチャンピオンの控室へと押しかける。

「お疲れ様です!今日の試合も楽しみにしてます!」

俺がそう挨拶する。チャンピオンは興味無さそうに「部外者が入ってくるな」とあしらう。

それがいつものお決まり、だった。

……けど、この日はいつもと違って、チャンピオンは口角をあげて静かに笑った。

「クク、お前は相変わらずだな。俺がいなくなったら、チャンピオンになるのはお前かもしれないな」

返す言葉が見つからない。彼がいないチャンピオンの座に意味があるのだろうか?

「けど、まあ、お前と同じくらいの実力者が他にふたりいる。そうだな、俺の見立てによると、ひとりは確実にお前じゃ勝てないよ」

いつも通りの嫌味節。けど、チャンピオンがそう言うなら、そうなんだろう。

「さて、リハーサル付き合って貰うぞ」

チャンピオンがそう言い、立ち上がる。

……俺は息を吸い込み、言葉を紡ぐ。リハーサルとはいえ、これは俺とチャンピオンの最後の戦い。

その意気込みに答えてくれるように、チャンピオンもリハーサルとは思えないくらいの気迫がこもったアンサー。

―――。

 

13:00~

リハーサルを終え、チャンピオンが本日の試合に向かう。

結局、俺は一度もチャンピオンに勝てなかった。

今日の試合がチャンピオンにとって最終試合になるのだが、それは公表されていない。

「【引退試合】なんてテンション下がるラップを観客に見せたくない。

最後まで戦い続け、無敗のまま伝説としてこの業界を去る」

あぁ……なんて彼らしいクソダサい理由だろう。俺はそれを見届けよう。

ライムという名のラッパーとの試合が始まった。

あぁ……クソかっけぇ。やっぱりチャンピオンは最高で最強だ。

 

14:00~

試合の余韻は尽きる事がない。

観客席でただただ茫然とギラギラ眩しいライトをぼんやりと見ていた。

最後の試合だと言うことは誰も知らないはずだが、その魂を全て捧げるようなラップは、当然のように観客全員の心を奪ったようで。

まわりの観客たちも俺と同じように試合が終わっても帰る様子がなかった。

30分、40分と時間が過ぎ、現実に戻ってきたように観客がひとりひとり去っていく。

 

15:00~

観客席を出ても未だ鼓動が鳴りやまない。

チャンピオンに挨拶に行く前に一度気落ちを落ち着かせよう。

俺は会場を出て、風に当たる。少し外を散歩していると、ピコン、とスマホが音を鳴らす。

……チャンピオンからだ。

【ヘイ、お疲れ、フロウ。

年賀状の文化が年々廃れてきて、メールやラインであけおめが済まされているらしいな。

常にトップを走る俺も、もちろんそれにノッていく。

つまりそう、遺書をラインで送るという試みだ。クールだろ?

俺が自殺する理由は、話すまでもなく分かってくれるかな?分からないか。

ま、後は任せた、俺は伝説として生きていくよ】

16:00~

全速力で会場へと走る。

チャンピオンの控室へ行くと、ライムバイブス、そして横たわるチャンピオンがいた。

 

 

 

(目標)

結局チャンピオンに勝てないまま、彼は自殺してしまった。

一番弟子である自分がチャンピオンの席に座る。

それが叶えられないのなら、彼が生きた証は、本当にこの世界から消えてしまうように思えた。

……そんな事は許されない。

 

何が何でもチャンピオンになってやる。

 

邪な考えが脳裏を支配する。それでも、何をしてでも、成し遂げなければならない大義がある。

現在チャンピオン候補は自分を含めて三人。自分がチャンピオンになるために……。

 

【誰かを犯人にしたてあげ、追放する】

 

それがあなたの目標だ。

 

(秘密)

チャンピオンの遺書、あの内容は間違えなく彼が書いた物だ。

【言霊】にはランクがあり、言葉を使いこなすレベルが高くないと出来ない、つまり一般的には未だ知られていない裏技がある。

それが【言霊自殺】だ。

チャンピオンならもちろん出来るし、最低でも俺くらいの実力がないと出来ない言霊の使い方。

鏡で自分の眼を見ながら高ランクの言霊を放つ。ただ、それだけで自殺できるのだ。

チャンピオンはおそらく、言霊自殺をしたのだろう。

 

(行動の指針)

チャンピオンが遺書を送ってきた事は、隠しておくべきだ。

誰を犯人にしたてあげればチャンピオンになれるだろうか?

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