青空(あおぞら)アオ
29歳、男性。
あなたの元チームメイト、水見(みずみ)スイが死亡した事件は、迷宮入りしている。
2090年。
今から10年前、当時、あなたはプロのサッカー選手だった。
当時、日本で大人気だったスポーツ「エレクトリカルサッカー」(以下、サッカー)。
サッカーと呼ばれる競技は、時代と共に少しずつ形を変えていった。数十年前は、11対11で戦うスポーツだったらしい。人口の減少に伴い、ルールの変更などを経て、4対4で戦う競技になった。
あなたは、小学校の頃、興味本位でサッカーをはじめた。
サッカーは、実際に身体を動かして、時には怪我をする可能性もある野蛮な遊びだと一般的には思われているが、チームメイトと練習し勝ちを目的に同じ時間を過ごすことは、世間がいう程悪い物ではなかった。
何より、ボールを蹴ることが、大好きだった。
スイとは、小学校の時、偶然同じチームになった。
あなたたちふたりは、神童と呼ばれるほど才能に溢れ、ふたりがレギュラーになってから負けなし。
中学、高校と同じ学校に進学し、全国一位の座を譲ることはなかった。
あなたとスイは、最高の仲間であり……ライバルだった。
ライバルだからこそ、この疑問を持たずにはいられない。
「どちらの方が上手いか?」
お互いが、自分こそが最強で、もし負けるならこいつしかいないと考えていた。
そして、本気で戦ったらどちらが勝つのか、知りたいとも思っていた。
プロになり、あなたとスイは、別々のチームからオファーを受ける。
プロの世界でも、あなたたちふたりは最強だった。
そして、ついに、ふたつのチームが戦うことになる、絶対に負けられない。負けたくない。
その年は、学習型AIアペイロンが世間を賑やかせていて、このままでは世界が滅ぶとか、人間の時代は終わるとか、そんな噂話で持ちきりだった。
―――試合当日。スイは試合中に命を落とした。
事故か事件かも分からないまま、試合は中止となる。
あなたは真実を知るために行動しようとしたが、急速な文明の発達に世界中が混乱に陥り、すべては迷宮入りした。試合どころか、プロサッカー選手なんて職業も無くなってしまった。
この10年は、一瞬だった。あなたたち人間は、AIの進化に対応するだけで手いっぱいで、現在でもまだ混乱は落ち着いていないものの、日常を取り戻しつつある。
……スイと戦えなかった。ふたりの約束を、果たせなかった。
スイは試合中に、何故、死んでしまったのか?あの時、何があったのか?
忙しない日々の中でも、あなたの心残りは消えることは無かった。
「迷宮入りした事件の真実を知り、裁きを下しませんか?」
あなたの前に、虹玉(にじたま)ナナイロと名乗った人物が現れた。
怪しい誘いではあったが、断る選択肢は無かった。
こうしてあなたは、ナナイロに誘われるまま、虹玉研究所へとやって来たのだった。