緑木(みどりぎ)ロクロウ
55歳、男性。
あなたの弟子、草原(くさばら)ソウが死亡した事件は、迷宮入りしている。
2090年。
今から10年前、当時、あなたは職人だった。
文明は発展していき、なにもかもが便利になっていたが、その根本を作るには人間の技が必要だった。
他人と関わることが苦手で、ひとりで黙々と仕事をこなしたいあなたにとって、人が嫌がるこの仕事は悪くなかった。手先の器用さもあって、仕事自体も思い通り進む。
しかし、ひとつだけ問題があった。それは、働き手不足。
オンラインでほぼすべての仕事がこなせる世界で、汗をかくし身体は汚れる仕事を進んでやる人は、なかなかいなかった。このままでは、職人は消えてしまう。
草原ソウもまた、変った奴だった。
当時19歳だったソウは、あなたに憧れ弟子にして欲しいと頼んできた。
ひとりが良いと口では言っていたあなたもやはり人間で、誰かから尊敬のまなざしを浴びせられて悪い気はしない。
文句を言いながらも、ソウを弟子として現場に連れていく毎日を送っていた。
ソウはあなたとは正反対のような明るい青年で、職人としての筋も良かった。
だから、あなたは、ソウに現場を任せてみようと考えた。
その年は、AI関連の工事で溢れかえっていた。
学習型AIアペイロンが世間を賑やかせていて、このままでは世界が滅ぶとか、人間の時代は終わるとか、様々な憶測が飛び交っていた。
……まさか自分たちが作っている物が、自分たちの仕事を奪うものだなんて思いもしなかった。
その工事は、無透(むとう)ナシの研究所を立てる工事だった。
―――その工事中に、ソウは、死んでしまった。
まだまだ未熟だったが、事故死するような仕事は任せていない……はずだ。
あなたは真実を知るために行動しようとしたが、急速な文明の発達に世界中が混乱に陥り、すべては迷宮入りしてしまった。
現場も立ち入り禁止となり、一般人では近づくことも出来なくなった。
この10年は、一瞬だった。
あなたたち人間は、AIの進化に対応するだけで手いっぱいで、現在でもまだ混乱は落ち着いていないものの、日常を取り戻しつつある。
もしかしかすると、自分の指示が悪くて死んでしまったのかもしれない。
忙しない日々の中でも、あなたの心残りは消えることは無かった。
「迷宮入りした事件の真実を知り、裁きを下しませんか?」
あなたの前に、虹玉(にじたま)ナナイロと名乗った人物が現れた。
怪しい誘いではあったが、断る選択肢は無かった。
こうしてあなたは、ナナイロに誘われるまま、虹玉研究所へとやって来たのだった。