橙(だいだい)ダイスケ
26歳、男性。
あなたの友人、ミカンが死亡した事件は、迷宮入りしている。
2090年。
今から10年前、当時、あなたはオンラインゲームのプロゲーマーだった。
インターネット全盛期を超え、オンラインでの匿名性の高い活動は当たり前になっていた。
プロの世界は厳しく、勝てば官軍負ければ賊軍、敗者は手のひらを返したように叩かれる。
だからこそ、顔を出さずに活動できる環境は、まだ16歳と若かったあなたにとって有難いものでもあった。
あなたは「ダイ」というハンドルネームで、世界的に有名なオンラインゲーム「セブンヘブン」のトップランカーへとなる。
セブンヘブンは、2人が1チームとなり4チームで戦う、戦略性の高いゲームだ。
実際にゲームの世界へダイブしてキャラクターを操作するので、プレイヤー自身の身体能力も必要である。
しかし、一番重要なのは想像力。
現実をも超えるイマジネーションがあれば、全てをひっくり返すことが出来る。
あなたの相方でもある「ミカン」は、オンラインで知り合った。実際に会ったことは無いが、心を許せる友人だ。
年齢も同じだと言っていた。声は女性なので、女性だと思っている。(もちろん、真実は分からない)
あなたたちは、有名企業からスポンサードを受け、プロとして数々の大会で好成績を残す。
そして、総決算である全国大会を迎えようとしていた。
この大会で優勝すれば賞金はもちろん、プロとしての箔もつく。
あなたたちが最強だと見せつけたい。
学習型AIアペイロンが世間を賑やかせていたのは、このくらいの頃からだった。
アペイロンを悪用すれば、匿名性なんてものは消え失せ、オンラインのプロゲーマーは全員職を失う。
なんてこと唱える人もいた。実際には世界中が混乱に陥り、全ての人が職を失ったのだが……。
全国大会当日。大会中に、ミカンは死亡した。ゲーム中の出来事ではない。実際の人間が死んだのだ。
母親と思われる人から「ミカンは死んだ。原因は分からない」とSNSを通して伝えられた。
あなたは信じられなかったし、何が起きたのか知りたかった。
あなたは真実を知るために行動しようとしたが、急速な文明の発達に世界中が混乱に陥り、すべては迷宮入りしてしまった。
この10年は、一瞬だった。あなたたち人間は、AIの進化に対応するだけで手いっぱいで、現在でもまだ混乱は落ち着いていないものの、日常を取り戻しつつある。
あの時、本当は、何が起きたのか?
そんな忙しない日々の中でも、あなたはミカンと最後まで戦えなかった悔しさを、大切な相棒を失った悲しさを、忘れたことは無い。
「迷宮入りした事件の真実を知り、裁きを下しませんか?」
あなたの前に、虹玉(にじたま)ナナイロと名乗る人物が現れた。
怪しい誘いではあったが、断る選択肢は無かった。
こうしてあなたは、ナナイロに誘われるまま、虹玉研究所へとやって来たのだった。