紫村(しむら)サキ
18歳、女性。
あなたの双子の姉、紫村ハナが死亡した事件は、迷宮入りしている。
2090年。
今から10年前、当時、あなたは子役として活躍していた。
双子の姉ハナとは、生まれた時からずっと一緒で、同時に生まれたとは思えないくらいハナは優秀だった。
スポーツ、勉強、遊び、何をしてもハナには勝てない。
そんなハナに対してあなたが抱いた感情は、劣等感ではなく、憧れだ。
あなたは、姉のハナを誇りに思い、そしていつか勝ってやると憧れ、目指した。
元々、母親に連れられて自分の意志も無くはじめたタレント活動だったが、次第にのめり込んでいく。
姉は演技も上手で、同い年とは思えないくらい大人と話すのも上手い。
まだ幼いあなたでも「ハナのおまけ」として現場に呼ばれていることは理解していた。
ハナに追いつきたくて、あなたは努力した。
そして、ついにあなたは主演の座を手に入れる。
といっても、ハナとふたりで主演のドラマ出演。
まだハナのおまけ感は抜けきっていないかもしれないが、それでも心の底から嬉しかった。
ハナは「おめでとう、待ってたよ。やっと一緒にできるね」と祝ってくれた。
私もハナと肩を並べて舞台に立てることを心の底から喜んだ。
……けど、結局その願いは叶わなかった。
あなたたちは、ロケ地での撮影に来ていた。
高性能なCGを使用して室内で撮影することが当たり前なこの時代に、監督は現地での撮影にこだわっていた。
前時代的だと馬鹿にする人もいたが、結果を出しているので誰も文句は言えない。
何より、8歳のあなたたちにとってそのイベントは、純粋に楽しみでもあった。
その年は、学習型AIアペイロンが世間を賑やかせていて、このままでは世界が滅ぶとか、人間の時代は終わるとか、様々な憶測が飛び交っていた。
まだ世界が混乱に陥る前だったこともあり、撮影は行われた。
―――その撮影中に、ハナは、自殺した。
ハナが自殺する訳がないと、あなたは信じられなかった。
あなたは真実を知るために行動しようとしたが、急速な文明の発達に世界中が混乱に陥り、すべては迷宮入りしてしまった。もちろん、ドラマ自体が無くなり、あなたの夢はそこで終わりを告げる。
この10年は、一瞬だった。あなたたち人間は、AIの進化に対応するだけで手いっぱいで、現在でもまだ混乱は落ち着いていないものの、日常を取り戻しつつある。
一緒にドラマに出る夢は、叶わなかった。本当はあの日何があったのか?
忙しない日々の中でも、あなたの心残りは消えることは無かった。
「迷宮入りした事件の真実を知り、裁きを下しませんか?」
あなたの前に、虹玉(にじたま)ナナイロと名乗った人物が現れた。
怪しい誘いではあったが、断る選択肢は無かった。
こうしてあなたは、ナナイロに誘われるまま、虹玉研究所へとやって来たのだった。