「ハレ」

 

僕は感情のまま図書室を飛び出し、病室へと戻ってきた。少し泣いて、気持ちが落ち着いてきた。

みんなが病室に戻ってくる。「さっきはごめんね」と出来るだけいつものように笑って言った。

 

しばらくすると、白衣を着た大人が僕たちを迎えに来る。

「時間です」と冷たい口調で言われ、僕たちは勉強部屋へと移動した。いつも通り、硝子に囲まれた部屋で白衣を着た大人に監視され、勉強をする。これは昔からずっと続いている日常で、僕たちにとっては”当たり前”だ。

 

この環境は気分が良いものではないが、何かを学ぶ事自体は嫌いでは無い。

マリス先生は厳しいしよく怒るけど、他の大人たちと違い、硝子の向こう側から冷たい目で僕たちを見たりはしない。

同じ人間として接してくれる。

 

―――いつも通りの一日が終わろうとしている。

 

同室の4人とも気が合い、本当の家族みたいだ。

夜が静まる。眠れなかった僕はこっそりと部屋を抜け出した。

……ペガサスは寿命で死んでしまった。

その事は理解できたし、これ以上みんなに心配させられない。でも、最後に夜空を見上げてお別れがしたかったんだ。中庭に行き、ぼんやりと空を見上げる。

 

「ハレ、大丈夫？」

不意に声をかけられ振り向くと、ユキがいた。

「うん、ありがとうユキ。もう大丈夫だよ」

やっぱり心配させちゃったな、精一杯の笑顔で僕はそう言う。

 

―――ユキが覚悟を決めたように立ち上がった。真っすぐな目で僕を見つけ口を開く。

 

「……ハレ、ずっと　内緒にしてたけど実は私魔法を使えるの」

魔法？聞いたことあるけど、本当に？そう問いかけようとした僕の言葉をユキが遮る。

 

「死んだ人や動物と、一度だけお話が出来る魔法。魔法使いは病院の外の世界では迫害されているらしくて、誰にも言っちゃダメだって大人に言われてたんだけど、辛そうなハレを見てたら我慢できなくて」

ユキの顔は真剣で、彼女の言葉を信じたくなった。

もう一度だけペガサスと話せるなら「ありがとう」って伝えたいんだ。

 

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ユキが、何か呪文のようなものを唱える。

 

……何度も繰り返すが、何も起きない。

 

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「……もういいよ、ユキ」

ユキは悪く無い、分かっている。僕を慰めようとしてくれたんだ。でも、僕はその嘘を許せなかった。

彼女を睨みつけ、僕は中庭を後にした。

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何故か廊下にホシノとタイヨウがいたが、とても話しかけられる気分じゃなくて、そのまま病室へと戻った。

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