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【最悪の結末】

「ムテキがそんな事する訳がない!もしムテキだとしてもきっと理由があるよ!!」
サイカがムテキの前に立ち、彼を庇っている。

「ムテキが犯人でしたか……犯人には罰を、と言いたいところですが、ムテキを殺すのは手間がかかりますね、なんだか面倒くさくなりました」
マザーが全てを包み込むような優しい顔でそう言い、椅子に腰を掛けた。

「信じてた仲間に最高傑作を盗まれるなんて!こんな不幸な事があるのか!?嗚呼……俺はもう満足した、不幸を有り難う!」
ジョーは、嬉しそうだ。

「そもそも僕は犯人に興味はなかったし、別に完成品が無くなろうがどうでも良い。……ムテキが殺されないならそれでいい。早く次の研究に移ろう」
ギョウが、静かにそう言った。

ムテキは、知っていた。
彼らが狂っていることを、それでも彼らが仲間思いの優しい奴等だということを。
天才同士の犯人捜し、という最高のテーマに好奇心が抑えきれなかっただけで、そもそも犯人をどうこうするつもりは無かったのだろう。
やっぱりこいつらは最高だ。
───でも、これは最悪の結末だ。

ムテキが犯人とばれる事、それは即ち、思考のスキャンがムテキには適応されていないと証明する事だ。
もうじき、上層部が研究所に来るだろう。
ムテキは殺され、他の4人は記憶を消される、それだけの結末。

ムテキは事の真相を全員に伝えた。

「おいムテキ、この世の終わりみたいな顔してるぜ?良いなぁ~!」
全てを諦め絶望するムテキの顔を、ジョーが羨ましそうに覗き込んだ。
それを見て、相変わらずの不幸馬鹿だな、と笑いそうになる。
行きすぎではあるが、失敗を喜ぶ姿勢、それは研究者として必要なものだろう。
そう、失敗した過去は、それを糧に成功させる事で、変えられるのだから。

「過去を変える……」

ムテキが、そうつぶやき立ち上がった。

「なぁマザー!過去に戻る薬とかって創れないか!?」
ムテキが、マザーに詰め寄る。

「そうですね、あなたたちと出会う前に原型は創った事がありますよ、ただエネルギー不足がどうしても解決しませんでした」
マザーがデータをモニターに映し、全員に見せた。

「ああ、そりゃ駄目だ。これに必要なエネルギーは熱量や電力などでは補えない、時間エネルギーが必要だと思う」
サイカがそれを見て、動き始める。

「楽しい時間は早く感じて、退屈な時間は長く感じる。その体感時間の差から生まれる時間エネルギーを圧縮したものをどこかに棄てたような……あった!」
ギョウが簡易ブラックホールから何かを取り出した。

「調べた感じ、このエネルギーじゃひとり分だなー!それと記憶を引き継いだまま過去に戻れる訳じゃなさそうだ。これを使っても、同じ時間を繰り返すだけかもしれないぜ~?」

ジョーは、いつも嬉しそうだ。

「さすが頼れる天才たちだ。お前たちといると、本当に退屈しないよ。人体実験は……俺の役目だよな」

こうして記憶を無くし、過去に戻ったムテキ達。

どこかでまた誰かが感染拡大!マーダーミステリー!をプレイしているのだろう。
その時はどうか、真相にたどり着けていますように。

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