赤真下(あかまっか) セキヤ
32歳、男性。
あなたの婚約者、朱未(あけみ)シュリが死亡した事件は、迷宮入りしている。
2090年。
今から10年前、当時、あなたは物書きをしていた。
ミステリー小説、といった類の物書きで、それを生業にして生活していた。
爆発的な代表作と呼べるものは無かったが、好きなことでご飯を食べられる程度の才能はあったようで、不自由はなかった。
あなたは少し変わり者で、紙に文字を印刷し束にした「本」と呼ばれる媒体を好き好んで使っていた。
わざわざ実物を用意し、手に持って読書する。
非効率的だと多くの人が馬鹿にする行為を進んでするあなたは、まわりから変人だと奇異の目で見られていた。
けど、彼女だけは違った。いや、正確には同じだった。
廃れた文化でも、自分が良いと思ったなら周囲なんて気にかけない。
あなたとシュリが惹かれ合うのは、必然だったのかもしれない。
休日は、ふたりで静かに読書をする。何事もない日常が、あなたは大好きだった。
その日は珍しく喧嘩をした。原因はあなただ。仕事で行き詰まり、筆が進まず苛立っていた。
ふたりで温泉へ行く約束をしていたのに、謝りもせずに一方的に断ってしまった。
シュリも珍しく怒って「ひとりで行く」と告げられた。
それが最後の会話だ。彼女は帰ってこなかった。
警察に連絡するも学習型AIアペイロン絡みの犯罪が多すぎて、取り合ってくれない。
あの日、シュリはどこにいたのか?何故、消息が途絶えたのか?
あなたに愛想を尽かしていなくなった……その可能性は否定できない。
けど、彼女はあなたの書いていたミステリー小説の完成を楽しみにしていた。
「最初の読者は私だからね?」と、言ってくれた。
あなたは真実を知るために行動しようとしたが、急速な文明の発達に世界中が混乱に陥り、すべては迷宮入りしてしまった。
この10年は、一瞬だった。あなたたち人間は、AIの進化に対応するだけで手いっぱいで、現在でもまだ混乱は落ち着いていないものの、日常を取り戻しつつある。
そんな忙しない日々の中でも、あなたは片時ともシュリのことを忘れたことは無い。
「迷宮入りした事件の真実を知り、裁きを下しませんか?」
あなたの前に、虹玉(にじたま)ナナイロと名乗る人物が現れた。
怪しい誘いではあったが、断る選択肢は無かった。
こうしてあなたは、ナナイロに誘われるまま、虹玉研究所へとやって来たのだった。