藍川(あいかわ)ラン
28歳、女性。
あなたの恩人、藍川ソウシロウが死亡した事件は、迷宮入りしている。
2090年。
今から10年前、当時、あなたは非合法な団体「藍川組」の一員だった。
当時のあなたは世間知らずの馬鹿だった。
ずる賢く生きる方法も、得手不得手を見極め行動することも、今のあなたなら当たり前のようにしていることが何一つ出来なかった。
そして、それらをすべて教えてくれたのが、藍川ソウシロウだ。
あなたが16歳の時、両親はいなくなった。
僅かな貯金と「子供に縛られずに好きに生きたい」と書かれた手紙を残して。
16歳のあなたを雇ってくれる場所は、ほとんどなかった。
それでもご飯を食べるために、何でもやるしかない。
悪い大人に騙されて、気付けば金を騙し取るような仕事の片棒を担いでいた。
あなた自身も、悪事を働いている自覚はあったが、もう戻れないところまで来てしまっていた。
……そのつけがまわった。
許可も無く商売したと、非合法な団体「藍川組」に、あなたの仲間たちは捕まってしまった。
そこの親分である藍川ソウシロウは、まだ幼かったあなただけを見逃してくれた。
……あなたは、それが悔しかった。
何もかもが中途半端。ダメなことだと理解してやっていたのに、被害者扱いを受けてしまった。
「てめぇで考えて、てめぇで悪になれるなら、その時は被害者じゃないって認めてやるよ」
藍川ソウシロウに言われ、あなたは藍川組の盃を受ける。
ソウシロウは身寄りの無いあなたを、娘として迎え入れてくれた。
藍川組の人たちも、悪い人ではない……といえば噓になるが、曲がった人たちではないと、あなたは考えていた。
ソウシロウの娘になったことで、まだ若いあなたは「姉さん」と呼ばれるようになった。
ソウシロウのおかげで、もう一度、家族を信じられるようになった。
あなたは、ソウシロウに恥をかかさないように、そしてソウシロウに認めて貰えるように、自分の意志で生きていけるようになった。
―――ソウシロウが死んだのは、とある組織との抗争中だ。
しかし、誰が殺したのか、何故死んだのか、なにひとつ分からないまま、藍川組は壊滅する。
あなたは真実を知るために行動しようとしたが、急速な文明の発達に世界中が混乱に陥り、すべては迷宮入りしてしまった。
この10年は、一瞬だった。あなたたち人間は、AIの進化に対応するだけで手いっぱいで、現在でもまだ混乱は落ち着いていないものの、日常を取り戻しつつある。
そんな忙しない日々の中でも、あなたは父親を……ソウシロウを忘れたことはない。
「迷宮入りした事件の真実を知り、裁きを下しませんか?」
あなたの前に、虹玉(にじたま)ナナイロと名乗る人物が現れた。
怪しい誘いではあったが、断る選択肢は無かった。
こうしてあなたは、ナナイロに誘われるまま、虹玉研究所へとやって来たのだった。